宣言的記憶(陳述記憶・顕在記憶)と非宣言的記憶(非陳述記憶・潜在記憶) - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

宣言的記憶(陳述記憶・顕在記憶)と非宣言的記憶(非陳述記憶・潜在記憶) - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

英語学習において、記憶システムの仕組みを意識して活用したことはありますか?記憶の特性を理解して活かすことは、学習に役立ちます。

なぜなら「学習することは記憶することである」と言っても過言ではないからです。

文法規則や単語の意味を理解し、暗記することは大切ですが、ただ闇雲に取り組んでいても、英語を使いこなす能力はなかなか身につきません。

それぞれの学習方法がどのような種類の記憶に支えられているものなのか、その学習はどのような役割を持つのか、これらを理解して意識的に学習に取り組むことは、英語を「使える技能」として習得するための近道につながります。

パタプライングリッシュでは、人の脳内で言語活動がどのように行われているのかを研究する「第二言語習得研究 (SLA: Second Language Acquisition)」から、効率的な英語学習のやり方について解説します。

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今回は人間の記憶システムの「宣言的記憶(陳述記憶・顕在記憶)」と「非宣言的記憶(非陳述記憶・潜在記憶)」にスポットを当てて、英語学習との関連性についてご紹介します。

「宣言的記憶(陳述記憶・顕在記憶)」と「非宣言的記憶(非陳述記憶・潜在記憶)」とは

宣言的記憶(陳述記憶・顕在記憶)と非宣言的記憶(非陳述記憶・潜在記憶)の図解

記憶システムの仕組みについては、1960年代における短期記憶と長期記憶の区分を先駆けとして、現在までに数々の研究者によって展開されています。

一連の研究から、人間の記憶は単一構造・単一機能ではなく、複数の異なるシステムから構成されていることが分かっています。

記憶の区分については、研究者によって見解が異なる場合があります。ここでは、記事執筆時点では最も一般的な記憶分類とされているスクワイアの記憶分類(上記図解)に基づいて解説します。

短期記憶と長期記憶

記憶システムは、まず記憶は短期記憶と長期記憶に二分されます。記憶が継続する期間に基づく区分です。

短期記憶と長期記憶について詳しくは「短期記憶と長期記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。

短期記憶わずか20秒から数分間の一時的な記憶を指します。
長期記憶いわゆる記憶「ものごとを忘れずに覚えておくこと」により深く関わる、大容量の情報を保持する貯蔵システムを指します。

長期記憶は、更に「宣言的記憶(陳述記憶・顕在記憶)」と「非宣言的記憶(非陳述記憶・潜在記憶)」に大別されます。陳述可能か否かを基準とした区分です。

宣言的記憶(陳述記憶・顕在記憶)とは、イメージや言語として意識的に想起でき、その内容を言葉で述べることができる事実に関する記憶(顕在記憶・what-記憶)です。宣言的記憶は、更に「エピソード記憶」と「意味記憶」に区分されます。

対して、非宣言的記憶(非陳述記憶・潜在記憶)とは、運動や技能など一連の手続きに関する記憶(潜在記憶・how-記憶)です。これらは意識的に想起ができず、口頭で述べることができない記憶です。非宣言的記憶は、更に「手続き記憶」「プライミング」「古典的条件付け」に区分されます。

宣言的記憶(陳述記憶・顕在記憶)非宣言的記憶(非陳述記憶・潜在記憶)
言語化できる記憶。情報の真偽の判断ができる形の認知システム言語化できない記憶。知覚運動技能や認知技能の習得に関わるシステム
例) 昨日の夕食をどこで誰と何を食べたか、りんごが何を意味するかの記憶例) ボールの投げ方、鉛筆の持ち方を学習する際の記憶
更に分類される記憶
エピソード記憶
意味記憶
更に分類される記憶
手続き記憶
・プライミング
・古典的条件付け

宣言的記憶・非宣言的記憶と英語学習との関わり

英語学習における記憶が「宣言的記憶(陳述記憶・顕在記憶)」と「非宣言的記憶(非陳述記憶・潜在記憶)」の各記憶システムに入った時に、どのような働きをするのか整理します。

宣言的記憶は意識的に記憶を想起して、言語化できる記憶システムのため、リーディングやライティングに適した記憶システムと言われています。

具体的には、英文メールを書く、英字新聞の読み込む、TOEIC等の試験で高いスコアを取る、といったスキルに活用できます。

スピーキングに必要なのは非宣言的記憶

リスニングやスピーキングの「スキルの獲得」となると宣言的記憶では不十分だと言われています。必要な情報を宣言的記憶に加えて、非宣言的記憶(とりわけ手続き記憶)にも入れる必要があります。

その理由は、言語を聞いたり話すという行為自体が意識的に行うものではなく、どちらかというと「無意識」「自動的」に行うからです。

母国語を話す時をイメージしてみてください。日常的に単語の意味や文法を意識して話す、という人はほとんどいないはずです。

意味記憶をはじめとする宣言的記憶にある情報は、「知っている」状態なだけで、情報を実際に使用するにあたっては、短期記憶の機能を使用して、情報を引っ張り出してくる作業が必要となります。(詳細についてはワーキングメモリの記事をご覧ください。)

つまり言語が「自動化」された状態ではないのです。

宣言的記憶は非宣言的記憶に移行できる

ここでポイントとなるのが、宣言的記憶と非宣言的記憶それぞれに保存された情報は、互いに関連性があることです。

宣言的記憶にある情報を元に学習を行うと、非宣言的記憶に移行することができ、情報が「自動化」します。したがって、ある程度、宣言的記憶に情報があると、非宣言的記憶の獲得が容易になります。

リスニングやスピーキングのスキルアップ(=非宣言的記憶の獲得)を目指すのであれば、その前に基礎的な英単語や文法を知っていた(=宣言的記憶の獲得)方がスムーズです。TOEICなど試験の勉強も決して無駄ではありません。

非宣言的記憶を活用したお勧めの英語学習法

スピーキングのスキルアップには非宣言的記憶、とりわけ手続き記憶の獲得が欠かせません。その手続き記憶を活用したお勧めの英語学習法を、いくつか簡単にご紹介します。

繰り返し学習を行う

シンプルな構造の文章で反復練習を行うことで、手続き記憶に情報が記憶されます。繰り返し学習は知らない語彙がある文章ではなく、知っている語彙で構成された文章で行うのがポイントです。

声に出して練習する

声に出す練習は、アウトプットをしながら体にすり込ませる効果的な練習法です。声に出す際は、文章の内容をイメージして行うようにします。

パターンプラクティスで練習する

同じ文章を反復練習するだけだと、文章自体を丸暗記してしまう可能性があります。

丸暗記だと期待する効果が得られなくなってしまうので、それを防ぐためにいくつかのパターンで練習を行います。

ポイントは様々なパターンの入れ替えを繰り返し行い、口に出して練習をすることです。

パターンプラクティスについて詳しい解説は「パターンプラクティス - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。

アウトプットを客観的に分析する

第二言語習得研究所の稲垣氏によると、声に出した練習など自分が行ったアウトプットを録音等で客観的に評価することが重要だといいます。

これらの学習法が手続き記憶に効果的な学習法です。各学習法の詳細は「手続き記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」で紹介しているので、ぜひ合わせてご覧ください。

最後に

「学習することは記憶することである」と冒頭でお伝えした通り、「どのような仕組みで記憶するのか」という仕組みの理解は、英語を習得する上で非常に役立ちます。

今、自分の英語力において、どの「記憶」が足りないのか、次のステップに進むためにはどんな「記憶」が必要なのか、しっかり意識しながら学習に取り組むようにしましょう。

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参考文献