シャドーイング - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

シャドーイング - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

英語学習において、記憶システムの仕組みを意識して活用したことはありますか?記憶の特性を理解して活かすことは、学習に役立ちます。

なぜなら「学習することは記憶することである」と言っても過言ではないからです。

文法規則や単語の意味を理解し、暗記することは大切ですが、ただ闇雲に取り組んでいても、英語を使いこなす能力はなかなか身につきません。

それぞれの学習方法がどのような種類の記憶に支えられているものなのか、その学習はどのような役割を持つのか、これらを理解して意識的に学習に取り組むことは、英語を「使える技能」として習得するための近道につながります。

パタプライングリッシュでは、人の脳内で言語活動がどのように行われているのかを研究する「第二言語習得研究 (SLA: Second Language Acquisition)」から、効率的な英語学習のやり方について解説します。

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今回は「シャドーイング」と呼ばれる英語学習法と人間の記憶システムについてご紹介します。

シャドーイングとは

シャドーイングとは、スクリプトを見ずに音声を追いかけるように、発音する練習法です。同時通訳者のトレーニングとして使われることも多く、発話の学習法の中での難易度はやや高めです。

シャドーイングは基本的にスクリプト(音声の英文テキスト)は使用せず、音声の1、2秒後を目安に、音声が聞こえたらできるだけ早く発音します。

音声教材さえあれば練習できて、やり方もシンプルなので比較的気軽に始められます。しかし、自身のスキルが学習法や教材の難易度と合っていないと、効果が出にくいため注意が必要です。

最初は音声のスピードについて行けない方も、根気強く練習をすると効果が出てきます。諦めずに練習を重ねてみましょう。

音声知覚が鍛えられる

「読めば分かるけど、音声だと理解できない」といった悩みを持つ日本人の英語学習は多くいます。これは発音、リズム、強弱といった英語特有の「音声」に慣れていないのが原因です。

「文字」と「意味」は繋がっていても、「文字」と「音声」や「音声」と「意味」が繋がっていないことが多くあります。「音声」が取り残された状態になっているのです。

音声知覚と意味理解

リスニングには「音声知覚」と「意味理解」の二つのスキルが必要です。音声知覚で「何を言っているのか」を理解し、意味理解で「それがどのような意味か」を判断し、「音声」と「意味」が繋がるのです。

音声知覚聞こえてきた音声を脳内で文字に変換するスキル
意味理解文字に変換された内容を理解するスキル

日本人は音声知覚のスキルが不足していると言われています。「音声」と「文字」を繋げるのが苦手なのです。

シャドーイングでは、聞こえてくる音声を口に出して、自分で音声を再現する練習を行うため、音声知覚が鍛えられます。

練習を重ねると音声知覚が自動化され、更に音声のデータベースが構築されるため、自動的に検索できるようになります。つまり、母国語(日本語)での音声を聞いた時と同様の処理が脳内でできるように変わります。

意味理解のスキルが高いと言われる日本人は、音声知覚のスキルが上がると、おのずとリスニング力も向上します。

シャドーイングの目的と効果

シャドーイングの目的と効果として、音声知覚が鍛えられることを説明しましたが、他にもどのような効果が期待できるか、リスニング、スピーキング、ライティングのスキル別に説明します。

音源を正確に聞き取れるようになる(リスニング)

シャドーイングでは、耳で聞いたことを即座に口に出す練習を行うため、聞く力が鍛えられます。

更に大まかな内容を把握するリスニング力ではなく、一言一句正確に聞き取るスキルが身につきます。TOEICなど英語試験のリスニング対策や、大事な会議で内容を聞き漏らさない対策として有効です。

発音が強化できる(スピーキング)

日本語と英語では母音と子音の組み合わせや数の違いなど、音自体が大きく異なります。例えば、日本語は母音が5個に対して英語は24個あります。子音に関しても、日本語だと16個ですが英語は24個あります。

母音の数子音の数
日本語5個16個
英語24個24個

日本人が発音を苦手とする理由が、この母音と子音の数の違いです。シャドーイングは音声をそのまま追いかけるように発音するため、英語の発音をより正確に発声する練習に適しています。

速く話すことに慣れる(スピーキング)

日本語と英語では口の中の空間や舌の使い方が異なります。うまく発音ができてもネイティブの速さで話すのは簡単ではありません。

シャドーイングを活用するとネイティブが実際に話すスピードを体験でき、そのスピードで口を動かす練習ができます。

定型表現が身につく(ライティング・スピーキング)

シャドーイングを繰り返し行うと、ネイティブがよく使う表現を「長期記憶」として覚えることができます。

定型表現が身につくと、結果的にスピーキングやライティングなどアウトプット作業の際に使うことができます。

長期記憶は数年から一生忘れずに覚えている記憶を指します。詳細は「短期記憶と長期記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。

シャドーイングと他の学習方法との違い

シャドーイングと似たような学習方法で「リピーティング」や「オーバーラッピング」があります。それらの方法とシャドーイングとの違いをご紹介します。

リピーティング

リピーティングは "英語音声を聞いた後にスクリプトを見ずに" 同じ文章を発音する練習法です。ネイティブ特有のイントネーションや発音が学べます。

リピーティングは音声を聞いた後に発音するため「リエゾン」と呼ばれる音と音のつながりへの理解が深まります。リエゾンは日本人がリスニングやスピーキングが苦手な理由の一つです。習得したい人にはお勧めの練習法です。

リピーティングについての詳細は「リピーティング - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。

オーバーラッピング

オーバーラッピングは "スクリプトを見ながら音声と同時に発音する" 練習法です。

リピーティングと同様、ネイティブらしいイントネーションや発音の練習ができます。また、速く話すことに慣れる練習ができるのも特徴です。

スクリプトを見ながら行うため難易度は低いです。シャドーイングやリピーティングが難しいと感じる場合は、オーバーラッピングからチャレンジするのもお勧めです。

オーバーラッピングについての詳細は「オーバーラッピング - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。

比較表

シャドーイングリピーティングオーバーラッピング
難易度中〜高
対象者中〜上級者以上中級者以上初心者
発話のタイミング音声の1〜2秒後音声が流れた後音声と同時
スクリプト見ない見ない見ながら
リーディング効果
ライティング効果
リスニング効果
スピーキング効果

シャドーイングが向いている人

シャドーイングの学習法は、次のような人に特にお勧めします。

リスニング、スピーキングが中級者以上

リピーティング、オーバーラッピング、シャドーイングの3つの学習法の中で、シャドーイングは難易度が一番高い学習法と言われています。

スクリプトを見ずに行うため、前提として高い語彙力や文法力、内容を理解するスキルを有している必要があります。

また、教材によっても難易度が大きく変わるため、自分のレベルに合った教材選びも重要です。

高度なリスニング力を身につけたい人

シャドーイングでは、一言一句を逃さないで聞き取る力が鍛えられます。聞こえてくる英語を全てキャッチして、音声教材や相手の話すことを聞き取れるようになりたい人にお勧めです。

また、音声知覚の習得ができるため相対的なリスニング力向上も見込まれます。

ネイティブのスピード感に慣れたい人

速く走るためには、腕を大きく振る練習が効果的だとされています。英語も同じように、ネイティブのスピードで話すためには、口を早く動かして正しい英語で発音する練習が必要です。

記憶の仕組みとの関わり

第二言語習得研究(SLA)における記憶の仕組みとシャドーイングには、どのような関わりがあるのでしょうか。シャドーイングの実践が記憶システムに与える影響について紹介します。

ワーキングメモリ内で競合し合う「音声知覚」と「意味理解」

先述の通り、リスニングには「音声知覚」と「意味理解」の二つのスキルが必要です。これらのスキルが合わさって、初めて脳内で「音声」が「意味」として処理されます。

音声知覚や意味理解を行う際、どちらも「ワーキングメモリ」と呼ばれる脳内のシステムで、一時的に情報を記憶します。

ワーキングメモリは脳内でメモ帳の役割を果たす短期記憶の一種です。詳しい解説は「ワーキングメモリ - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。

ワーキングメモリは容量に限界があります。また、音声知覚と意味理解に必要な情報はワーキングメモリ内で競合してしまい、より多くの容量を消費することになります。

音声知覚のスキルが不足していると、英語を聞き取ることに気を取られすぎて、音声知覚の情報ばかりワーキングメモリに入ってしまいます。

その結果、意味理解に使えるメモリ(容量)が少なくなってしまい、聞き取った英語がどのような内容だったか処理できず、聞いたのに理解できない状態になります。

シャドーイングは音声知覚を自動化、更にデータベース化する効果のある学習法です。

シャドーイングに取り組むと、リスニングの際にワーキングメモリ内を占める音声知覚のメモリが減り、意味理解に使えるメモリを増やすことができます。その結果、リスニング力が高まります。

音声を長期記憶に保存できる

シャドーイングは音声知覚の自動化に繋がると話しましたが、自動化するステップで英語の音声は「長期記憶」、更には長期記憶の中にある「手続き記憶」に保存されます。

手続き記憶に保存された情報は、自動的に機能する特徴があります。

人間の記憶システムと手続き記憶の図解

長期記憶は数年から一生忘れずに覚えている記憶を指します。詳細は「短期記憶と長期記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。

手続き記憶は身体の様々な器官を使って繰り返し学習することによって獲得され、一生忘れないレベルの強固な記憶です。詳しい説明は「手続き記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」の記事をご確認ください。

シャドーイングによって、英語の音声を手続き記憶に保存することが可能です。

音声を手続き記憶に保存して「自動化」すると、脳内に英語の音韻データベースが構築されるメリットがあります。つまり、リスニングで耳から聞こえてきた英語を、一度日本語に変換するプロセスが省略できるようになります。

繰り返しシャドーイングのトレーニングを行うと、脳内でデータベース検索も自動化できるようになり、リスニングでの意味理解が深まる結果になります。

発音の際は1.5秒以内に正確に発音すると、より長期的に記憶が保持される研究結果も出ています。

ワーキングメモリの容量を増やす

英語を復唱する作業を重ねると、ワーキングメモリの容量が増えると言われています。

ワーキングメモリの容量が増えると音声知覚や意味理解に使えるメモリが多くなり、長期記憶に保存される情報も多くなります。

雑音が多い環境など耳から入ってくる情報(音韻情報)が多いと、ワーキングメモリがパンクして混乱が生じてしまうので、注意が必要です。

最後に

シャドーイングは学習法としてはやや難易度の高いものになりますが、自身のスキルに合った教材を選べば大きな効果が得られます。

英語の音声を自動化できるため、特にリスニング力の向上が見込まれます。TOEIC等のテスト対策はもちろん、ネイティブとの会話や会議でも大いに役立ちます。

一方、シャドーイングとスピーキングは類似していると考える研究者もいます。

頭で考えた内容を短時間で言語化して言葉を発するスピーキングの作業が、聞こえてくる音声を瞬時に発話するシャドーイングの作業と似ているのです。

どちらも「瞬時にアウトプットする」プロセスが同じなので、シャドーイングはスピーキングの練習にもなるだろうという考えです。

慣れるまでは音声についていくのが大変かもしれませんが、シャドーイングはリスニングとスピーキングの双方のスキルアップが期待されます。一度挑戦してみてはいかがでしょうか。

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