インプット仮説 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

インプット仮説 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

英語学習において、記憶システムの仕組みを意識して活用したことはありますか?記憶の特性を理解して活かすことは、学習に役立ちます。

なぜなら「学習することは記憶することである」と言っても過言ではないからです。

文法規則や単語の意味を理解し、暗記することは大切ですが、ただ闇雲に取り組んでいても、英語を使いこなす能力はなかなか身につきません。

それぞれの学習方法がどのような種類の記憶に支えられているものなのか、その学習はどのような役割を持つのか、これらを理解して意識的に学習に取り組むことは、英語を「使える技能」として習得するための近道につながります。

パタプライングリッシュでは、人の脳内で言語活動がどのように行われているのかを研究する「第二言語習得研究 (SLA: Second Language Acquisition)」から、効率的な英語学習のやり方について解説します。

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今回は「インプット仮説」と呼ばれる第二言語習得における仮説についてご紹介します。

インプット仮説とは

インプット仮説とは、アメリカの言語学者スティーブン・クラッシェン氏が提唱した「モニターモデル」の仮説の一つです。

アメリカの言語学者であるスティーブン・クラッシェン氏は、第二言語習得研究(SLA)をはじめとする言語の研究で数々の受賞履歴を持つ研究者です。なかでも第二言語習得の5つの仮説を述べた「モニターモデル」は特に有名で、1985年の発表以来、現在でも第二言語習得研究で大きな影響を与え続け、多くの学者や教育関係者から注目を浴びています。

モニターモデルの5つの仮説

モニターモデルには、以下の5つの仮説があります。

習得学習仮説
自然習得順序仮説
モニター仮説
インプット仮説
情意フィルター仮説

インプット仮説は、学習者がどのように言語を「習得」するか、という問いに対する答えを明らかにした仮説です。

この仮説はクラッシェン自身も5つの仮説のうち最も重要だと主張しており、モニターモデルの言わば中核とも言える仮説です。

インプット仮説では「理解可能なインプット」つまり、学習者の現在のレベルよりやや高いレベル、且つ理解できる内容をインプットすることが、自然な言語習得につながると提起されています。

更にその習得は、自然習得順序仮説で解説された自然的な順に沿って習得していくのだと言います。

学習者に合わせてインプットの会話を修正する必要性

インプット仮説の中でクラッシェンは、学習者に理解可能なインプットを与え続けることが重要だと話しています。

例えば、幼児が母国語を習得する際、大人が話す言葉を聞いて覚えていきますが、テレビの音声だけでは言語の習得には至りません。

これはテレビの内容がその幼児の「理解可能なインプット」のレベルに合っていないからです。母親がその子に分かる言葉で話しかけ続けることで、幼児は言語を習得していきます。

これは第二言語習得においても同じです。スピーキングのレベルを上げるためには、学習者の理解可能なレベルでインプットをし続ける必要があります。

従って、教える側はインプットの会話内容や話すスピードなどを、学習者に合わせて修正することが重要です。クラッシェンはその修正された会話表現は次の3つになるとしています。

  1. Foreigner talk: ネイティブが第二言語の学習者に合わせて、簡単な表現で発話する
  2. Teacher talk: 教室などで教師が学習者に合わせた内容で発話する
  3. Interlanguage talk: 母国語の異なる学習者同士が、互いにスキルが十分でないまま会話をする

これらの修正された会話表現は、どれも学習者の「理解可能なインプット」につながるため、必要不可欠です。

インプット仮説の理論

クラッシェンはインプット仮説を論理的に説明するために、学習者の現在のレベルを「i」と定義しました。

現在のレベルよりやや高いレベルを「i+1」とすると、「i+0」でも「i+2」でもなく「i+1」で継続して学習した時が、一番自然に習得できたと言います。

アウトプットの必要性を否定

この仮説を発展させた推論で、スピーキングは習得によってできる結果であり、原因ではないとクラッシェンは主張します。

そのためアウトプット(スピーキング)そのものを教えることはできず、スピーキングの練習では第二言語のスキルアップには繋がらないと言うのです。

また文法に関しても、自然的な順序で理解可能な内容をインプットしていくので、意識的に学習する必要もないと言います。

このように、理解可能なインプットである「i+1」が第二言語習得の唯一の方法であり、アウトプットの必要性はないと否定したことが、クラッシェンのインプット仮説における最大のポイントです。

インプット仮説に対する批判

インプット仮説は「第二言語習得に必要なものは理解可能なインプットのみ」という極端な内容のため、批判が多く存在します。

まず、クラッシェンの理論は形式的には間違っていないものの、曖昧な概念で実質的でないため、無内容だという意見があります。

「理解可能なインプット」自体を否定することは誰にもできませんが、インプット仮説では具体的なインプットの内容について述べられていないため、実用的ではないという反論があります。

更にアウトプットの必要性を否定している点にも批判が集中しています。習得の結果がアウトプットで、アウトプットは習得のステップには必要ない、というのは極端すぎるという意見が多くあるのです。

実際、理解可能なインプットを数年間続けても、発表能力(アウトプット)を伸ばす機会が少ないと十分習得できていない研究結果もあります。

この研究を行ったスウェイン(Merrill Swain)教授は、クラッシェンのインプット仮説に疑問を感じ、インプットだけでは不十分だとして「アウトプット仮説」を提唱しました。

スウェインのアウトプット仮説とは

アウトプット仮説とは、第二言語習得において「理解可能なインプット」は必要だが十分でないと主張した上で、アウトプットの必要性を唱えたものです。

スウェイン教授によると、アウトプットはインプットよりも学習者に知的努力を要するため、言語処理もより深く行われると言います。

また、インプットはある程度ごまかしが利くのに対し、アウトプットはごまかせないので、実際に話したり書いたりすることで、学習者は自身の能力の客観的な判断や限界を認識できます。

この認識を正しくすることで、足りないものをインプットして補い、スキルアップにつなげることができる、というのがアウトプット仮説のポイントです。

最後に

クラッシェンのインプット仮説は「理解可能なインプット」の必要性、つまり、今よりも少し上のレベルの内容を勉強しよう、という非常に分かりやすいものです。

「理解可能なインプット」が第二言語習得の唯一の方法だという主張や、アウトプットの必要性を完全に否定するなど、見解が極端すぎる点に多くの研究者から批判を浴びているのも事実です.

また、現在ではインプットよりもアウトプットに重きを置く学習法の方が主流になりつつあります。

しかし、一人の学習者としてインプット仮説を活用できるポイントはあります。

  • 難しすぎてできないことではなく、今の自分でもできることから勉強する
  • 全く分からない内容の教材を使わない
  • 小さな成功体験(「できた!」)をたくさん作る

どれもとてもシンプルで、今すぐに実践できる内容だと思います。第二言語習得のヒントになるので、クラッシェンの「i+1」も意識しながら学習を進めてみてください。

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