認知プロセス
第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方
当記事はビジネス英語スピーキング教材「パタプライングリッシュ」を利用することで、なぜスピーキング力を身につけることができるのか、科学的根拠を示しながら解説します。
今回は人間の記憶システムの「認知プロセス」にスポットを当てて、英語学習との関連性についてご紹介します。
認知プロセスとは
第二言語習得における認知プロセスとは、インプットからアウトプットまでの間に起こる学習者の意識の働き、意識の変化について示したものです。
2006年、第二言語習得の研究者である村野井仁教授によって提案されました。
認知とは「何か(インプット)を認識・理解すること」また「その結果」を指します。村野井教授によると、認知プロセスはインプットとアウトプットをつなぐ過程には「気づき」「理解」「内在化」「統合」の4段階があります(図1)。
図1の第二言語習得の認知プロセスは4段階に分かれていると同時に、インプットからアウトプットに至るまでの過程で「情意的要因」が関係し、「生得的言語習得能力」「帰納的学習システム」「語用能力習得システム」「一般的問題解決型学習システム」「スキル習得システム」が働くことを示しています。
気づき - 認知プロセス第1段階
まず、言語習得の認知プロセスの第1段階が「気づき」です。
気づきとは、学習者が最初にインプットに触れる際、自分の耳や目を通して入ってくる表現や音などに「意識を向けること」です。
例えば、英会話のリスニングの際に「それがどういった場面で」「どのような内容なのか」「またどういった単語が使われているのか」などの事実に意識を向け、気づくことです。
このように、インプットの一部に学習者の注意が向けられた場合、そのインプットは「気づかれたインプット」になります。
気づきのプロセスで大切なことは、「気づいてはいたけれど、理解できなかった」に注意が向くことです。「気づかれたインプット」は、その次の「理解」の段階に進むからです。
普段の英語学習において、「気づき」を意識したことはありますか?言葉遊びのように聞こえるかもしれませんが "「気づき」を意識することそのものが「気づき」" であるとも言えます。
インプットにおいて、まず最初に気づくことがなければ、その後のプロセスにはつながりません。
その意味で「気づき」の段階は、学習者自身がそれぞれに無意識に持っている学習内容の「ふるい」であると言い換えられるでしょう。この段階で気づかれないものは、学習されないからです。
このふるいは、学習者自身の情動的要因、すなわち学習への動機や態度によっても異なります。
理解 - 認知プロセス第2段階
次に、言語習得の認知プロセスの第2段階が「理解」です。
「気づき」のプロセスでインプットされたものが「理解されたインプット」になるためには、言語形式と意味のつながりを把握するばかりでなく、「どのような機能を果たすのか」まで理解する必要があります。
これらが達成されると、「気づかれたインプット」は「理解されたインプット」に変化します。これは、次のプロセスである「内在化(インテイク)」の前提条件となります。
また、理解のプロセスは「中間言語仮説形成の段階」とも言い換えられます。
中間言語とは、学習者言語とも言い、第二言語習得途上の「母語でもなく目標言語でもない段階の言語」を意味します。
中間言語仮説形成の段階で、学習者は耳や目を通して入ってきた表現や音に何度も触れるうちに、「この表現はこのような意味だろう」「こういう場合に使うのだろう」というように推測していきます。
このように、ある言語形式が、どんな意味や機能を持つのかを次第につかんでいくことは、学習者が言語データの中に規則性を見つけ、言語形式・意味・機能の関係について一つの仮説を立てることと言えます。
そして、次の「内在化(インテイク)」のプロセスで、この仮説が正しいことを証明し、学習者の中に定着させることにつながっていくのです。
内在化 - 認知プロセス第3段階
言語習得の認知プロセスの第3段階は「内在化」です。
内在化とは、インプットを自分のものにするプロセスで、これによって内在化された言語知識そのものを「インテイク」と呼んでいます。
この段階では、その前の「理解」において中間言語仮説形成の「検証」を行います。学習者は、時に必要に迫られる形で「理解されたインプット」の段階で立てた仮説を、話したり書いたりすることで検証するのです。
つまり、「仮説に基づいて行った発話が、相手にうまく理解された場合には、仮説は認証される」ということで、その反対も然りです。
「理解されたインプット」がコミュニケーションを目的とした言語産出に使われるようになると、それは学習者の中間言語システムに取り込まれ始めたサインです。これにより、「内在化」のプロセスが進んでいると考えることができます。
「インテイク」は、次の「統合」のプロセスを経て、自動的に運用できる「中間言語知識」として、更にしっかりと学習者の中間言語システムの中に組み込まれていきます。
統合 - 認知プロセス第4段階
最後に、言語習得の認知プロセスの第4段階が「統合」です。
統合とは、学習した表現が「長期記憶」として学習者内部に定着し、自動的に使いこなせるようになる段階です。
長期記憶は数年から一生忘れずに覚えている記憶を指します。詳細は「短期記憶と長期記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。
統合を促進するためには、実際に目標言語を使用すること、特にアウトプット活動を行うことが重要です。つまり、英語を話したり書いたりすることによって、言語項目を自動的に使いこなす能力が伸びると考えられています。
一人でできる学習法として「リピーティング」や「シャドーイング」などが言語知識の自動化を促すうえで効果的な訓練であると言われています。
リピーティングはネイティブ特有のイントネーションや発音が学ぶのに効果的な学習法です。詳細は「リピーティング - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。
シャドーイングは、ネイティブの話すスピードに慣れることができ、リスニングを高めるのに効果的な学習法です。詳細は「シャドーイング - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。
認知プロセスにおける統合の定義では、インテイクとして学習者内部に取り込まれても、数日で忘れてしまう言語知識は統合されたとは言えないとされています。また、記憶の中に入ってはいるけれど、実際に使用する際に時間がかかる場合も統合されたとは言えません。
このことから、統合の特長として「知識が自動化していること」が挙げられます。
「知っているけれど使えない」知識を、手続き記憶に取り込む(転化させる)ことを「記憶の自動化」と呼びます。詳細は「手続き記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。
インプットの際の注意点
以上の4段階を踏まえてインプットの際の注意点を挙げるならば、認知プロセスの中では第1段階の「気づき」にあります。つまり、「意識を向けること」です。
言語情報に向ける「意識」の働きは、学習のインプットに大きな役割があるとされています。
気づきのプロセスで大切なことは、「気づいてはいたけれど、理解できなかった」に注意が向くことである、と述べました。しかし、同時に「気づくこともできず、理解することもできない」インプットにならないように学習することも重要です。
そのためには、意識すべきポイントを事前に知っておくのはもちろんのこと、積極的な態度で学習に臨む必要があります。なぜなら、気づきには学習者自身の情動的要因も関係しているためです。
インプットにおいては、学習者の習熟度や学習態度により、意識すべきポイントが異なることを理解しておきましょう。
例えば、同じ文章でも、何度も読んでいるうちに新しいことに気づくことはありませんか?一度に全ての気づきを得られなくても、繰り返すうちに気づきは増えていきます。その上で、得られた気づきを一つずつ理解していくことが重要です。
アウトプットの際の注意点
アウトプットの際に意識すべきポイントは2点あります。一つ目は「何ができるようになれば良いのか学習者自身が把握すること」です。
「英語を話せるようになりたい」と願いながら、そのためには何ができれば良いのか具体的に把握しているでしょうか?学習者自身が、自身の学習レベルと目的を把握し、明確な到達目標を持つ必要があります。
二つ目は「アウトプット活動を継続的に行うこと」です。アウトプット活動とは、例えば、話すこと、書くことです。アウトプットの目的を理解し、繰り返し訓練することが重要です。
なお、インプットからアウトプットをつなぐ認知プロセスを理解したところで言えることは「アウトプットが学習の出発点になる」です。目標とするアウトプットを把握しておくことは、逆説的にインプットの際の「気づき」の手がかりになるからです。
「英語を話せるようになりたい」「使える英語を身につけたい」のであれば、英語を使えること、つまり、英語のアウトプットを意識して取り組むことが一番の近道になります。
英語学習における認知プロセスの重要性
インプットからアウトプットまでの過程として4段階の認知プロセスを解説しました。
言語を活用するためには「気づき」「理解」「内在化」のそれぞれの過程を経る必要があります。言語を使えるレベル、つまり学習者に「統合」するまでになるためには、どの過程も飛ばすことはできません。
認知プロセスを理解することは、これらの4段階に意識的になることです。
自らの学習がそのうちのどの段階にあるかを知ることは、それぞれの段階で必要な学習方法を選択するヒントになるだけでなく、学習者の強みや弱み、学習の癖を知ることにもつながります。
何のためにこの方法を用いて学習しているのかを知ったうえで取り組むことは、ただ闇雲に勧められた教材をこなすこととは異なります。
例えば、今は気づきの段階で「次の理解のためにはこのステップが欠かせない」などを理解して学習に臨めば、得られる効果も確実になります。
最後に
認知プロセスを理解することで、他の記事にある記憶の仕組みを理解することとは少し違う視点を得られるのではないでしょうか。
記憶の仕組みが人間に共通するものならば、認知のプロセスは人によってそれぞれに異なるものです。認知プロセスについて知り、それを実践することは、自分自身を知ることにつながります。
英語学習の「目的(アウトプット)」を把握し、どんな「気づき(インプット)」が必要なのか。あるいは、自分はどんなインプットには気づきやすく、気づきにくいのか。自身の学習を見つめ直すきっかけになるかもしれません。
その上で、アウトプットに関する到達目標を明確にしながら、インプットとアウトプットをつなぐ統合的な英語学習を行うことが大切です。
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参考文献
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監修:松尾 光治
元大手英会話スクールの教務主任、教材開発。在米35年、現在もニューヨーク在住。早稲田大学第一文学部中退、英検1級、TOEIC985点。英会話の講師とニューヨークでの日系商社での勤務経験から、日本人ビジネスパーソンを対象にした実用的な英語教材を開発。
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