オーバーラッピング
第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方
当記事はビジネス英語スピーキング教材「パタプライングリッシュ」を利用することで、なぜスピーキング力を身につけることができるのか、科学的根拠を示しながら解説します。
今回は「オーバーラッピング」と呼ばれる英語学習法と人間の記憶システムについてご紹介します。
オーバーラッピングとは
オーバーラッピングとは、スクリプト(音声テキスト)を見ながら音声と同時に発音する練習法です。音声のスピードに合わせて発音します。
オーバーラッピングに必要なものはスクリプト付きの音声教材のみで、練習方法もシンプルです。比較的取り組みやすい方法で、手軽に始めることができます。
オーバーラッピングのやり方
オーバーラッピングを行う際は、事前にスクリプトを確認して、内容を理解してから行うのがポイントです。
内容が分からない状態で始めると練習の効果が減ってしまいます。分からない単語や文法がないかチェックしてから開始しましょう。
音声のスピードを追い越したり遅れたりしないように心がけます。音声とずれが生じた場合は、区切りをつける場所が誤っていたり、話す際のリズムが違っていたりするのが主な原因です。ずれてしまったら、修正して再度練習します。
オーバーラッピングの目的と効果
オーバーラッピングの目的と効果をリーディング、リスニング、スピーキングのスキル別に説明します。
文章の区切りが分かる(リーディング)
黙読では文章がどこで区切られるのか分からないことがあります。特に一文が長い文章は区切りの付け方で、文章への理解も変わります。
オーバーラッピングを行うとネイティブがどの位置で区切るのかが分かるようになり、文章を読み込む力や文法力のアップが期待できます。
英語を「音」として聞く力が上がる(リスニング)
耳から聞こえる英語の音声と同時に発音することで、聞く力がアップします。また、英語を「音」として聞けるようになるため、英語の「音」のルールへの理解が深まります。
英語特有のリズムや強弱の習得と発音矯正ができる(スピーキング)
単語自体の発音が分かっていても、文章の中でその単語がどのようなリズムで発音されるか分からないと、話す際にぎこちなくなります。
また、スピーキングをマスターするには文章中の強弱の習得も欠かせません。
オーバーラッピングはスクリプトがあるため、内容を理解するのに必死になりがちなリスニングでも、ネイティブの「音」に集中して耳を傾けることができます。そのため、英語特有リズムのイントネーションや発音矯正に取り組みやすくなります。
速く話すことに慣れる(スピーキング)
日本語と英語では、舌や口の中の空間の使い方が異なるため、うまく発音ができてもネイティブの速さで話すのは簡単ではありません。
オーバーラッピングを活用すると、ネイティブが実際に話すスピードがどの程度が体験でき、口を動かしてそのスピードに慣れる練習ができます。
オーバーラッピングと他の学習方法との違い
オーバーラッピングと似たような学習方法で「リピーティング」や「シャドーイング」があります。それらの方法とオーバーラッピングとの違いをご紹介します。
リピーティング
リピーティングとは、英語音声を聞いた後に "スクリプトを見ずに" 同じ文章を発音する練習法です。オーバーラッピングのようにネイティブ特有のイントネーションや発音が学べます。
また、オーバーラッピングと異なり、リピーティングは音声を聞いた後に発音するため、「リエゾン」と呼ばれる音と音のつながりへの理解が深まります。
日本人がリスニングやスピーキングが苦手な大きな理由の一つがリエゾンです。リエゾンを練習したい人にもお勧めの練習法です。
リピーティングはスクリプトを見ずに行うため、難易度はオーバーラッピングよりも高くなります。オーバーラッピングで英語を話すことにある程度慣れてきたら、次はリピーティングにチャレンジしてみてください。
リピーティングについての詳細は「リピーティング -第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。
シャドーイング
シャドーイングとは、スクリプトを見ずに音声を追いかけるように発音する練習法です。オーバーラッピングと同様、ネイティブの話すスピードに慣れることができます。
また、耳で聞いた内容をすぐに口に出すので、リスニングとスピーキングを同時に習得できるメリットもあります。
しかし、スクリプトを見ずに行うため、シャドーイングは3つの練習方法の中で、難易度が一番高くなります。高いリスニング力と語彙力や文法力が前提として求められます。
更に単語や文章の構成を理解した上で行わないと、シャドーイングの効果が十分に得られないので注意が必要です。
難易度の高い練習法ですが、音声についていけなくても諦めずに続けることがポイントです。
シャドーイングについての詳細は「シャドーイング -第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。
比較表
シャドーイング | リピーティング | オーバーラッピング | |
---|---|---|---|
難易度 | 高 | 中〜高 | 低 |
対象者 | 中〜上級者以上 | 中級者以上 | 初心者 |
発話のタイミング | 音声の1〜2秒後 | 音声が流れた後 | 音声と同時 |
スクリプト | 見ない | 見ない | 見ながら |
リーディング効果 | − | ○ | ○ |
ライティング効果 | △ | ○ | ○ |
リスニング効果 | ◎ | ◎ | ○ |
スピーキング効果 | ◎ | ◎ | ○ |
オーバーラッピングが向いている人
リピーティングやシャドーイングもリスニングやスピーキングの練習として効果的ですが、オーバーラッピングは次のような人に特にお勧めします。
リスニング・スピーキングの初心者〜中級者
スピーキングの練習でオーバーラッピングは準備運動だと言われています。日常的に英語を話す機会が少ない人や、すぐに英語が口から出てこない人は、スクリプトを見ながらオーバーラッピングで英語の音に慣れる練習をしましょう。
ネイティブの話すリズムやスピードに慣れたい人
速く走れるようになるために腕を大きく振る練習をするのと同じように、ネイティブのスピードで話すためには口を早く動かして正しい英語の発音をする練習が必要です。
発音矯正やイントネーションを集中して練習したい人
リスニングとスピーキングを同時に行うオーバーラッピングですが、スクリプトを用いるため、一つのことにフォーカスして練習できるメリットがあります。特に発音矯正、リズムや強弱といったイントネーションの練習を集中して行うのにお勧めです。
記憶の仕組みとの関わり
第二言語習得研究(SLA)における記憶の仕組みとオーバーラッピングには、どのような関わりがあるのでしょうか。オーバーラッピングの実践が記憶システムに与える影響について紹介します。
発音やリズムを手続き記憶に落とし込める
発音やリズムを意識してオーバーラッピングを繰り返し行うと「手続き記憶」に落とし込むことができます。
手続き記憶は長期記憶の一種で、行為を「自動化」する働きをします。自動化された記憶(行為)は無意識で行うことができます。ボールの投げ方や楽器の演奏の仕方も手続き記憶に当てはまります。
手続き記憶は身体の様々な器官を繰り返し動かすことで獲得でき、一度獲得すると一生忘れないと言われています。何年間も自転車に乗らなくても、最初の乗れなかった状態に戻ることがないのと同じです。
日本人の多くが苦手とする発音や英語特有のリズムも、オーバーラッピングで耳や口、喉といった器官を使って繰り返し練習することで、手続き記憶として落とし込めます。
無意識でネイティブのような発音ができるようになれば、スピーキングのスキルアップにも役立てます。
手続き記憶については「手続き記憶- 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」の記事をご確認ください。
最後に
オーバーラッピングは英語特有の「音」に慣れる最初のステップとして、とても有効的な練習方法です。
発音やリズムなど日本語とは異なる英語の音声を口に出す練習を通して、イントネーションを身につけることができます。
しかし、スクリプトを用いた練習法で難易度が低いため、オーバーラッピングのみでは英語のスピーキング自体を習得するのは難しいです。
「話せるようになること」が目標の場合は、リピーティングやシャドーイングも合わせて行うことをお勧めします。
オーバーラッピングは発音矯正にもお勧めなので、「英語は話せるけど発音に自信のない」「今一度自分のイントネーションを確認したい」といった人も、ぜひ試してみてください。
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参考文献
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監修:松尾 光治
元大手英会話スクールの教務主任、教材開発。在米35年、現在もニューヨーク在住。早稲田大学第一文学部中退、英検1級、TOEIC985点。英会話の講師とニューヨークでの日系商社での勤務経験から、日本人ビジネスパーソンを対象にした実用的な英語教材を開発。
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