レキシカルアプローチ
第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

レキシカルアプローチ 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

当記事はビジネス英語スピーキング教材「パタプライングリッシュ」を利用することで、なぜスピーキング力を身につけることができるのか、科学的根拠を示しながら解説します。

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今回は「レキシカルアプローチ」と呼ばれる言語教授法と人間の記憶システムについてご紹介します。

レキシカルアプローチとは

レキシカルアプローチ(Lexical approach)とは言語学者マイケル・ルイス教授が1993年に提唱した言語教授法です。

Lexicalとは「語彙の」「語彙的な」「単語の」といった意味

ルイス教授は言語の基本は「レキシカルチャンク(通常一緒に使われる単語のまとまり)」にあるとし、言語を流暢に扱うには「文法と単語の記憶量」より「素早くアクセスできるレキシカルチャンクを多く持つこと」が重要であると提唱しています。

英語の母語話者の発話のうち58.6%、書き言葉のうち52.3%が定型表現によると算出する研究結果もあり、英語母語話者が非常に多くの定型表現を言語産出の際に利用していることを実証しています。

レキシカルチャンクとは

レキシカルチャンクとは、通常一緒に使われる単語のまとまりのことを言います。イディオム(慣用句、熟語)、句動詞、コロケーションなどが含まれます。

イディオム

「Face the music(現実に向き合う)」「A piece of Cake(朝飯前)」など直訳からは意味を想像しにくい熟語

句動詞

「look at」「watch out」など動詞と他の助詞が組み合わさって作られる熟語

コロケーション

「Fast food」は言うが「Quick food」とは言わない、「A quick meal」と言うが「A fast meal」とは言わないなど、なぜその組み合わせが不自然かは文法で説明できず、慣習的に用いられる英単語の組み合わせ(※ネイティブスピーカーにとって「自然に聞こえる」組み合わせ)

特にコロケーションは、どの語を組み合わせるか文法的に考えても判断できず熟語でもないため、非ネイティブスピーカーにとっては学習しにくいと言えます。

レキシカルチャンクとチャンクの違い

「チャンク」とは英語の学習においてよく使われる表現で、2〜8語程度からなる意味のカタマリのことを言います。

「レキシカルチャンク」はネイティブが通常一つのカタマリとして使うまとまりの表現のことのみを指し、「チャンク」は意味を持つ区切り全般のことを指す、といった違いがあります。

例えば「I can’t believe some companies still uses fax machines in this day and age.」の文章は下記のように区切ることが可能です。

原文I can’t believe some companies still uses fax machines in this day and age.
区切り1①I can’t believe / ②some companies still uses fax machines in this day and age.
区切り2①I can’t believe / ②some companies / ③still uses / ④fax machines / ⑤in this day and age.

この場合、レキシカルチャンクは「in this day and age(このご時世)」の部分を言います。

レキシカルアプローチの具体例

レキシカルアプローチの学習におけるポイントは、下記の2点にあります。

  1. レキシカルチャンクに気が付くこと
  2. 単語のみを覚えるのではなく、フレーズで記憶すること

そのために下記のような学習が有効です。

  • リスニングとリーディングに時間をかけ、レキシカルチャンクに触れる機会を増やす。
  • ネイティブスピーカーが日々の生活で触れるマテリアルに触れる。(テレビ、ニュース、新聞、本など)
  • 文章内からレキシカルチャンクを見つけてマーカーを引く。繰り返しその部分を音読する。
  • イディオムの日本語の意味を英語にする、またはイディオムを日本語に訳す。

レキシカルアプローチで得られること

レキシカルアプローチでは、ネイティブスピーカーが日常的に使用する英文からレキシカルチャンクを拾って学習するため、自然な言い回しを身につけることができます。

また、表現のまとまりごとで記憶をするため、英文の理解と構築のスピードが上がり、スムーズなコミュニケーションが可能になります。

リスニング・リーディングでのメリット

英語を単語ごとではなく、レキシカルチャンクごとに処理するため、理解のスピードが上がります。

英語が聞き取れない原因に、同じ単語でも単体で発音した時と、文中で発音した時に音が異なることが挙げられます。

レキシカルチャンク単位で音を覚えることは実際の会話と同じ音を覚えることができるため、実践的な英語の学習に効果を発揮します。

スピーキング・ライティングでのメリット

単語ごとに意味を覚えていると「どの前置詞と組み合わさるのか」「不定詞(to do)なのか」「動名詞(doing)なのか」など毎回ゼロから組み立てていくため、英文を作るのに時間がかかります。

レキシカルチャンクとして英語を使用できると、すでにある程度出来上がったブロックを組み立てるだけなので、素早く英文を作れるようになります。

特にスピーキングでは「思考」と「英文」を同時に組み立てる必要があるため、スピーディーに英文を作れるスキルは大きなメリットと言えます。

ライティングにおいては、Eメール、レポート、エッセイなど英文文書はある程度フォーマットが決まっており、固定化されている表現も多く、レキシカルアプローチは効果的です。

レキシカルチャンクで英語を使うことができれば、より効率的にプロフェッショナルな文章を描けるようになります。

記憶システムから見たレキシカルアプローチ

英語をレキシカルチャンクで捉えて学習することは、記臆システムの観点からも効率が良いです。

人間の脳では、入ってきた情報を短期記憶の一つである「ワーキングメモリ」で処理しています。この際、コンピューターのような一文字あたりに決められたメモリを割り当てられている訳ではなく、一つのまとまりごとに保存していきます。

人間の記憶システムと作業記憶(ワーキングメモリ)の図解

手続き記憶とは、繰り返しの反復によって獲得され、一度手続き記憶として獲得されると一生忘れないレベルの強固な記憶。記憶が形成される過程ではエピソード記憶や意味記憶との相互作用がある。詳しい説明は「手続き記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」の記事をご確認ください。

ワーキングメモリの容量は上限があるため、一度に記憶できる情報に限界があります。

一度に余計な情報が入ってくると処理が追いつかず、意味を理解したり「長期記憶」に転送して「覚えている」状態にするのに時間がかかってしまいます。

長期記憶は数年から一生忘れずに覚えている記憶を指します。詳細は「短期記憶と長期記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。

ワーキングメモリの容量をセーブできる

例えば、下記のようなランダムな7つの文字を記憶するとします。

あ  ら  く  の  べ  ぽ  わ

この場合7つ分の容量が使われます。
一方、こちらはいかがでしょう?

いぬ  ごりら  あか

先の例と同様に7つの文字を使用していますが、後者の方が記臆しやすいと感じませんか?

ワーキングメモリでは単語のまとまりごとに処理され、実際には3つ分の容量しか使用していないのです。その分、容量に余裕ができ、意味と結びつけて長期記憶への定着がしやすくなります。

このように、まとまりとして情報を捉えることができれば、人間の脳はよりスピーディーに効率的に処理できます。

定型表現はひとかたまりの語彙として長期記憶内に蓄えられていることを実証する研究結果もあります。個々の語を個別に並べて文を生成する場合と比較して、処理の高速化につながることを示唆しています。

最後に

チャンクを活用したレキシカルアプローチは、無駄なく効率的に英語を習得する上で非常に有効な学習方法です。

  • 文法は一通り学習みなのに、英文メールを打つのに苦労する
  • 一つ一つの単語の意味は分かるのに、話の内容が分からない
  • 文法の学習や単語の暗記に時間を費やしてきたにも関わらず、必要な場面で英語が出てこなくて自信が持てない

このような悩みを持っている方は、レキシカルアプローチを試してみると良いでしょう。

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