PCPPモデル
第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方
当記事はビジネス英語スピーキング教材「パタプライングリッシュ」を利用することで、なぜスピーキング力を身につけることができるのか、科学的根拠を示しながら解説します。
今回は第二言語習得における「PCPPモデル」についてご紹介します。
PCPPモデルとは
PCPPモデルとは以下の4つの英単語の頭文字を合わせたものです。
Presentation (提示)
Comprehension (理解)
Practice (練習)
Production (産出)
これは英語教授法の一つで、特に文法知識の習得や英作文の正確さを身につけることに役立つ学習の一連の流れです。
PCPPモデルの成り立ち
PCPPモデルの成り立ちとしては、まず、古くから実践されてきたPPP教授法があります。PPP教授法は「文法訳読法」「オーラル・メソッド」「オーラル・アプローチ」「コミュニカティブ・アプローチ」などの方法を少しずつ取り入れた伝統的な指導法です。
これに、第二言語習得の研究者である村野井仁教授が「C(Comprehension)」を加える形で、PCPPモデルは提唱されました。村野井教授は、第二言語習得における「認知プロセス」についても提唱しており、PCPPモデルの考え方と重なる部分が多くあります。
日本人に効果的な学習法
英語学習においては、これまでに様々な方法が提案されて来ましたが、その全てが日本人にとって効果的であるとは言い切れません。英語を話す国で開発された方法は、英語を外国語として学ぶ人にとって学習環境が大きく異なるからです。
その点において、PCPPモデルは日本人の研究者によって提唱された学習法の一つで、日本人のような英語を母国語としない第二言語学習者に効果的な学習法であると言われています。
PCPPモデルの各プロセス
①Presentation (提示) | まず初めに「提示」の段階では、目標となる文法項目や新出語彙について提示・説明します。 |
②Comprehension (理解) | 次に「理解」の段階では、リスニング、リーディングにおける例文や教科書本文の理解を深めます。 |
③Practice (練習) | そして「練習」の段階では、文法項目に関する様々な練習を行います。具体的には、模倣、リピート、パターンプラクティスなどの方法で繰り返し練習します。 |
④Production (産出) | 最後の「産出」 では、目標としていた文法を用いたコミュニケーション活動を行います。より自発的に言語を使用し、意味に焦点を当てた言語を使用する段階です。 |
③Practice(練習)は、「宣言的記憶」が「手続き記憶」へと発展するためにも必要不可欠なプロセスです。また、ここでPCPPモデルに特長的なのは「正確さ」に焦点を当てた練習であることです。
宣言的記憶とは、想起意識がある、つまり思い出している意識のある記憶であり、その内容を自分で言葉で説明できます。「陳述記憶」または「顕在記憶」とも呼ばれます。詳しい説明は「宣言的記憶(陳述記憶・顕在記憶)と非宣言的記憶(非陳述記憶・潜在記憶) - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」の記事をご確認ください。
手続き記憶は長期記憶の一種で、運動や習慣、技能の記憶です。詳しい解説は「手続き記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。
PCPPモデルの重要性
以上4つのプロセスから成るPCPPモデルは、日本人の英語学習者が外国語としての英語を習得する上で効果的であると言われています。教科書を中心に授業を行う日本の英語教育の現場に即した流れであるからです。
英語は、日本語を母国語とする人からすると初めは全く馴染みのない語順や見覚えのない単語であるはずです。それを使いこなすためには、まずある程度基礎となる文法を正しく身につける必要があります。
PCPPモデルでは、4つ全ての段階において、文法学習とその正しさに焦点が当てられています。その意味で、PCPPモデルによる英語学習は、英語を習得するために基礎となる土台作りの学習法であると言えます。
PCPPモデルに対する批判
一方で、PCPPモデルについては批判の声もあります。それは、文法の正しさを追求するあまりに、実践性・実用性に欠けるのではないかというものです。
特に、最近ではコミュニケーション重視の英語教育に流れが変化してきました。その中で、形式よりも意味の伝達に重きを置くタスク重視の教授法が注目を浴びています。
「しっかり文法項目を理解して、たっぷり練習して、実際にそれを使ってみる」というPCPP教授法は、英語を習得する上で十分に説得力がありそうですが、
「正確さを重視するあまり、本当のコミュニケーション活動につながらないのではないか」
「習った語彙・文法・構文を使えるのはその場だけで、長期記憶に統合されないのではないか」
等の問題点を指摘されているのも事実です。
最後に
英語学習には様々な方法があります。それぞれの方法に長所・短所の両方があることは言うまでもありません。だからこそ、一つの方法にこだわらず、必要に応じて柔軟に適切な方法を選択する必要があります。
PCPPモデルに役立つ点と批判される点があったように、目的によって適切な方法は異なります。そのため、どんな学習方法があるのか、またそれぞれにどんな特長があるのかについて知っておくことは、英語習得の手助けになります。
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参考文献
- 林伸昭(2017)「日本人英語学習者に適した英語教授法・指導法-PCPP、AL、教材-」.『宮崎公立大学人文学部紀要』(24).155-171.
- 川本祥也,佐藤 臨太郎(2011)「PPP授業とTBL授業の文法学習における効果の比較検証」.『教育実践総合センター研究紀要』(20).95-100.
- 村野井仁(2011)「アウトプットと第二言語習得」.『東北學院大學論集 英語英文学』 (95). 51-64.
- 牧野尚史(2020)「第2章必修教科等の研究 9外国語(英語) 教科書を活用したタスク型英語学習の効果について -主体的で対話的な深い学びへのアプローチ-」.『滋賀大学教育学部附属中学校研究紀要』.(62).94-99.
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監修:松尾 光治
元大手英会話スクールの教務主任、教材開発。在米35年、現在もニューヨーク在住。早稲田大学第一文学部中退、英検1級、TOEIC985点。英会話の講師とニューヨークでの日系商社での勤務経験から、日本人ビジネスパーソンを対象にした実用的な英語教材を開発。
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