ワーキングメモリ - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

ワーキングメモリ - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

英語学習において、記憶システムの仕組みを意識して活用したことはありますか?記憶の特性を理解して活かすことは、学習に役立ちます。

なぜなら「学習することは記憶することである」と言っても過言ではないからです。

文法規則や単語の意味を理解し、暗記することは大切ですが、ただ闇雲に取り組んでいても、英語を使いこなす能力はなかなか身につきません。

それぞれの学習方法がどのような種類の記憶に支えられているものなのか、その学習はどのような役割を持つのか、これらを理解して意識的に学習に取り組むことは、英語を「使える技能」として習得するための近道につながります。

パタプライングリッシュでは、人の脳内で言語活動がどのように行われているのかを研究する「第二言語習得研究 (SLA: Second Language Acquisition)」から、効率的な英語学習のやり方について解説します。

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今回は人間の記憶システムの「ワーキングメモリ」にスポットを当てて、英語学習との関連性についてご紹介します。

ワーキングメモリとは

人間の記憶システムと作業記憶(ワーキングメモリ)の図解

ワーキングメモリとは「作業記憶」「作動記憶」とも言われる短期記憶の一種です。

脳の「メモ帳」の役割を果たし、感覚刺激として新たに入ってきた情報を「一時的に保持」します。一時保持と並行して、長期記憶にある情報を検索・参照し、情報を加工して、アウトプットや理解に必要な「処理(操作)」を行います。

この「保持」と「処理」がワーキングメモリの役目です。

ワーキングメモリと英語との関わり

ワーキングメモリの容量には限りがあるため、「いかにワーキングメモリの容量に空きを作るか」が重要になります。

長期記憶の「宣言的記憶(陳述的記憶・顕在記憶)」に入っている知識・情報は、ワーキングメモリが「検索・参照」の作業を行う必要があります。

それに対して「非宣言的記憶(非陳述的記憶・潜在記憶)」の特に「手続き記憶」に入っている知識・情報は、ワーキングメモリが「検索・参照」しなくても自動的にワーキングメモリに送られてきます。

宣言的記憶とは、想起意識がある、つまり思い出している意識のある記憶であり、その内容を自分で言葉で説明できる。「陳述記憶」または「顕在記憶」とも呼ばれる。
非宣言的記憶とは、想起意識のない記憶、つまり自分の意思とは無関係に、意識しなくても思い出されてしまう記憶である。言葉で説明するのが難しいことが多い。「非陳述記憶」または「潜在記憶」とも呼ばれる。
詳しい説明は「宣言的記憶(陳述記憶・顕在記憶)と非宣言的記憶(非陳述記憶・潜在記憶) - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」の記事をご確認ください。

手続き記憶について、詳しい説明は「手続き記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」の記事をご確認ください。

読み書きができても、会話ができない理由

リーディングやライティングの場合は、ワーキングメモリを「検索・参照」に使っていても問題ありません。記憶されている知識や情報を、時間をかけて思い出す余裕があるからです。

そのため、意味記憶・エピソード記憶のような「宣言的記憶(陳述的記憶・顕在記憶)」に知識として十分な情報が入っていれば、英語検定で高得点を取ったり英文メールを書くことができます。

しかし、会話中で耳から入ってくる情報を瞬時に処理しつつ、同時に話す内容を英語で考えながら発言するとなると状況が全く変わってきます。

限りあるワーキングメモリの容量を「検索・参照」に使っている状態では、テンポよく会話をすることは不可能だからです。

これが「読み書きはできるが話せない」「英語のスコアはいいのに話せない」の原因です。

宣言的記憶と非宣言的記憶にある情報は、それぞれワーキングメモリの働き方が変わる

ワーキングメモリとリスニング

日本語なら聞いたことを覚えておけるのに、英語だと聞いたはずの内容をすぐに忘れてしまった経験はありませんか?

この現象にもワーキングメモリが関係しています。

母国語の日本語なら、わざわざ情報を「検索・参照」しなくても自動的にワーキングメモリに送られてくるため、ワーキングメモリの容量を「記憶の保持」に回すことができ、すぐに忘れることがありません。

母国語の場合は、多くの知識・情報が手続き記憶としてすでに保存されているからです。

それに対して、手続き記憶に保存されていない英語(第二言語)の場合は、ワーキングメモリは「一時保持」と「検索・参照」を同時に行う必要があるため、すぐに容量を越えてしまいます。

結果、長い英文をリスニングしていると新しい情報が次々と入ってきてしまい、聞きながら忘れていることになります。

母国語はワーキングメモリが「検索・参照」をしないから記憶の保持ができる

ワーキングメモリとスピーキング

スピーキングの過程で「頭の中で日本語を考えてから英訳する」「語彙や文法に関する知識を頭の中から探しながら文を作り話す」をしてしまうと、ワーキングメモリの容量を相当使うことになります。

英語を話そうと思った時、意識的に思い出す(日本語を英訳する、文法を考える)必要があると、ワーキングメモリを使って、宣言的記憶(陳述的記憶・顕在記憶)から「検索・参照」をします。

母国語なら「内容を考えながら話す」という脳の処理をしているのに対して、「①内容を考える」「②文法や語彙を考えながら英訳する」とワーキングメモリを使用する容量が、圧倒的に変わります。

そのためワーキングメモリの容量が足りなくなり、「瞬時に答えられない」「ネイティブのスピードについていけない」という現象が起こります。

会話の中でうまく発言できなかった場合でも「後から考えればなんと言えばよかったのか分かる」というのは、宣言的記憶(陳述的記憶・顕在記憶)には十分な知識が入っているからです。会話中では、その十分な知識を検索・参照する容量が足りなかったと言えます。

スムーズに会話をしていくためには、ワーキングメモリの容量をどう使うかが重要になります。

ワーキングメモリの容量を残さないとスムーズに会話ができない

ワーキングメモリと手続き記憶

ワーキングメモリの容量を、「会話内容の理解」「何を話すかの処理」に回すためには、英語が手続き記憶に入っていることが重要になります。

手続き記憶に入っている情報はワーキングメモリが「検索・参照」をする必要がないためです。

英語学習においては、英語を手続き記憶にする、つまりは学んだ英語が「スキル・技能」として身につくまでトレーニングすることが必要不可欠なのです。

必要なのは反復練習とリハーサル

手続き記憶は反復練習とリハーサルによって獲得されます。

リハーサルとは、短期記憶の忘却を防いだり、長期記憶に転送するために、記憶するべき項目を何度も繰り返すこと。短期記憶内に記憶を維持し、忘却を防ぐためのリハーサルを「維持リハーサル」と呼ぶ。電話番号をその場限りで覚えるような場合がそうである。短期記憶から長期記憶に記憶を転送し、長期記憶に取り込むためのリハーサルを「精緻化リハーサル」と呼ぶ。精緻化リハーサルでは短期記憶で一時的に保持している情報を、他の知識と結びつけたり構造を理解しながら反復する。
詳しい説明は「リハーサル - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」の記事をご確認ください。

リハーサルによって獲得された手続き記憶は長期記憶の「非宣言的記憶(非陳述的記憶・潜在記憶)」という最も強固な記憶となります。これがいわば「スキル・技能」のことです。

大人になって久しぶりに自転車に乗った際にも不自由なく乗れるのは、自転車の乗り方が手続き記憶に入っていることにより体が覚えている「スキル・技能」になっているからです。

手続きは「スキル・技能」の記憶

ワーキングメモリの働きを理解して英語力を高めよう

ワーキングメモリ自体を鍛えることは非常に難しく、限定された状況下でしか鍛えた内容も作用しないと言われています。

だからこそ、ワーキングメモリと長期記憶との関係性を理解し、「ワーキングメモリをどう効率的に使うか」を考えていく必要があります。

母国語の場合は、ワーキングメモリの容量を「検索・参照」に使う必要がないと話をしてきました。

母国語で話す状態ではワーキングメモリに大きな負担がかからず、「何を話したいか」の内容に集中できます。

英語で長い話を聞いたり会話を続けている最中に、耳から聞こえているのに思考が付いていけなくなる時はありませんか?その状態こそがワーキングメモリが容量オーバーになっている証拠です。

英語を手続き記憶に入れることでワーキングメモリの負担を減らし、話の内容に集中できる状態を作ることが重要です。

ワーキングメモリの働きを理解し、英語を「知っている知識」から「自由に使えるスキル」に変換していきましょう。

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