手続き記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

手続き記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

英語学習において、記憶システムの仕組みを意識して活用したことはありますか?記憶の特性を理解して活かすことは、学習に役立ちます。

なぜなら「学習することは記憶することである」と言っても過言ではないからです。

文法規則や単語の意味を理解し、暗記することは大切ですが、ただ闇雲に取り組んでいても、英語を使いこなす能力はなかなか身につきません。

それぞれの学習方法がどのような種類の記憶に支えられているものなのか、その学習はどのような役割を持つのか、これらを理解して意識的に学習に取り組むことは、英語を「使える技能」として習得するための近道につながります。

パタプライングリッシュでは、人の脳内で言語活動がどのように行われているのかを研究する「第二言語習得研究 (SLA: Second Language Acquisition)」から、効率的な英語学習のやり方について解説します。

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今回は人間の記憶システムの「手続き記憶」にスポットを当てて、英語学習との関連性についてご紹介します。

手続き記憶とは

人間の記憶システムと手続き記憶の図解

手続き記憶とは長期記憶の中でも「非宣言的記憶(非陳述的記憶・潜在記憶)」の中にある記憶です。繰り返しの反復によって獲得され、一度手続き記憶として獲得されると一生忘れないレベルの強固な記憶です。

自転車に乗る方法や楽器を弾く方法などは同じ経験の反復によって形成され、運動技能、認知技能、習慣は手続き記憶に分類されます。一般的に一度習得すれば自動的に機能し、長期間保持されます。

例えば「ハッピーバースデーの歌(Happy birthday to you)」を歌う時、特に思い出そうとしなくても自然とメロディーや歌詞が口から出てくるのではないでしょうか?

私たちは歌う時、喉で声を出し、口を動かして言葉を発し、耳で音を聞く、といったように身体の様々な器官を動かしています。

このように身体を使って覚えると、手続き記憶として定着しやすくなります。

手続き記憶と英語学習

第二言語の習得は「①インプット → ②気づき → ③理解 → ④内在化 → ⑤統合 → ⑥記憶の自動化」のプロセスを経ると言われています。

①インプット
②気づき
意識を向けることでただ聞こえているだけではない「気づき」が生まれる
③理解それを語彙や文法を含めて「理解」する
④内在化インプットした内容が正しいかを検証することで「内在化」する
⑤統合内在化された記憶を忘れないために長期記憶に保持する「統合」をする
⑥記憶の自動化統合までを経た英語を反復とリハーサルにより手続き記憶に落とし込む「記憶の自動化」の作業を行う

英語を「手続き記憶」にできれば、文法や単語を毎回頭の中で考えなくても自然と使えるようになります。

これがパタプライングリッシュで、英語が「技能・スキル」であると説明する理由です。

第二言語習得のプロセス

手続き記憶とスピーキング

母国語で話す時、どのように文章を組み立てていますか?どのように思い出しているでしょうか?

このように聞かれてもうまく答えられないと思います。それは「思い出している」よりは、「無意識に」「自動的に」思ったことをそのまま口に出している、という感覚が近いからではないでしょうか?

日常で母国語を話す際、文法事項を意識して文章を組み立てることはありません。つまり母国語を話す時、私たちは自然と手続き記憶を用いていると言えます。

手続き記憶で使用する脳の場所

手続き記憶とワーキングメモリ

英語を母国語のように話すためには手続き記憶に入れる必要がありますが、それには「ワーキングメモリ」の働きについても説明しなければいけません。

ワーキングメモリとは、脳の「メモ帳」の役割を果たす短期記憶である。感覚刺激として新たに入ってきた情報を一時的に保持し、並行して、長期記憶に保存された情報を検索・参照してくる。そして両方の情報を加工して必要な処理(操作)を行う。この「保持」と「処理」がワーキングメモリの役目である。
詳しい説明は「ワーキングメモリ - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」の記事をご確認ください。

ワーキングメモリは、入ってきた情報を「①保持」「②検索・参考」「③処理」する役割を果たしますが、容量には限りがあります。

手続き記憶に入っている情報(知識)は、「②検索・参照」をせずに、手続き記憶からワーキングメモリに送られてきます。

ワーキングメモリの容量は「①保持」と「③処理」、つまり「①会話の中で相手が言った内容を覚えて」「③自分が言いたい内容を考える」という部分だけに使うことができます。

逆に手続き記憶に入っていない情報の場合、ワーキングメモリは全ての作業を同時に行う必要があるため、それぞれに割ける容量が減り、「リスニングしていても頭に残らない」「テンポよく会話が返せない」という状況が起きます。

母国語のようにスムーズに会話を行うためには、英語を手続き記憶に入れておくことが非常に重要なのです。

手続き記憶の性質を英語学習に活かすメリット

英単語や文法事項は頭に入っているのに会話となると出てこない理由、それは英語の知識が「意味記憶」として記憶されているからです。

意味記憶とは「いつどこで覚えたかは分からない」「覚えているより知っていることに近い」など事実に関する記憶のことです。例えば「1日は24時間」は、大人であれば誰でも知っている意味記憶の一つで、いわば知識です。
詳しい説明は「意味記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」の記事をご確認ください。

意味記憶に知識として入っている記憶は、テストで高得点を取ったり英文メールを書いたりするには十分ですが、「スムーズに会話をする」ためには手続き記憶に入っている必要があります。

これをパタプライングリッシュでは、「知っている知識(意味記憶)」を「使える知識(手続き記憶)」に転化すると説明しています。

パタプライングリッシュは、すでに知識として知っている「意味記憶」を「手続き記憶」と呼ばれる自然に使える技能にするために体系化されたトレーニング教材です。中上級者を対象にしているのは、十分な知識が意味記憶にある(英語試験で高得点は取れる)学習者ではないと効果的なトレーニングが行えないからです。教材の紹介は「パタプライングリッシュ for Business」をご確認ください。

それでは、英語を手続き記憶にするにはどうすればいいのでしょうか?

記憶の「自動化」

意味記憶に保存された「知っているけれど使えない」知識を、手続き記憶に取り込む(転化させる)ことを「記憶の自動化」と呼びます。

この「記憶の自動化」を、どう効率的に行うかが、英語を話せるようになるかの分かれ道となります。

それぞれの記憶の機能をつかさどる脳の部位記憶が変化すると脳はどうなるか

手続き記憶を活かしたおすすめ英語学習法

記憶の自動化によって英語を手続き記憶にするためには、リハーサルと反復練習を行う必要があります。

リハーサルとは、短期記憶の忘却を防いだり、長期記憶に転送するために、記憶するべき項目を何度も繰り返すこと。短期記憶内に記憶を維持し、忘却を防ぐためのリハーサルを「維持リハーサル」と呼ぶ。電話番号をその場限りで覚えるような場合がそうである。短期記憶から長期記憶に記憶を転送し、長期記憶に取り込むためのリハーサルを「精緻化リハーサル」と呼ぶ。精緻化リハーサルでは短期記憶で一時的に保持している情報を、他の知識と結びつけたり構造を理解しながら反復する。
詳しい説明は「リハーサル - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」の記事をご確認ください。

シンプルな構造の文で繰り返し学習

反復練習によって手続き記憶に送り込むためには、大前提として宣言的記憶(陳述的記憶・顕在記憶)にすでに知識として入っている必要があります。

知らない語彙がたくさんある難解な文章ではなく、すでに知っている語彙、シンプルな構文で成り立つ文章で反復練習を行い、手続き記憶に落とし込むことがポイントです。

声に出して練習

手続き記憶は「技能・スキル」なので、声に出す練習を通して徹底的に体にすり込むことが重要です。徹底的なアウトプットが足りていないことが、多くの日本人がスピーキングを苦手とする理由です。

声に出して練習する際には、文章の内容を鮮明にイメージしながら行いましょう。

なぜ鮮明なイメージが必要であるかは、「2重符号化説 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」の記事をご確認ください。

忘却曲線に沿った反復練習

エビングハウスの忘却曲線を活用することで、効率的に記憶の自動化を行うことができます。

エビングハウスの忘却曲線とは、ドイツの心理学者・エビングハウスによる、人が学習した内容を忘れるまでの、時間と記憶の関係を表した忘却を表す曲線です。
詳しい説明は「エビングハウスの忘却曲線 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」の記事をご確認ください。

エビングハウスの忘却曲線
エビングハウスの忘却曲線を活かした復習

パターンプラクティスで練習

シンプルな構造の文章の一部分(時制、主語、動詞など)を入れ替えて練習する、パターンプラクティスの学習法を取り入れるとより効果的です。

「反復練習」は、単純に丸暗記が目的ではありません。文章を丸暗記してしまったら、実際の会話で使える英語にできません。

反復練習では、さまざまなパターンでの入れ替えを繰り返し行うことが重要です。なぜなら、実際の会話では自然と応用を効かせながらその場にあった文章を瞬間的に構築していく必要があるからです。

トレーニングの際には単純な繰り返しではなく、精緻化リハーサルを意識しましょう。

例えば、下記のように英語フレーズを選び、繰り返し音読します。

ここで重要なのはしっかり声を出して練習するということです。文章を文字で読む音読より、耳から入ってくる音声で練習する方が記憶の蓄積という意味で効果があります。

Can I take a day off tomorrow?
上で覚えたフレーズの一部分を変えて、表現のバリエーションを増やす。

Can I take a day off this Friday?
Can I use a vacation day this Friday?
Can I finish this report tomorrow?

それぞれの文章を口から出す時には、「しっかりと意味が理解できていること」「自分が話しているつもりになって口から出すこと」が重要です。

これらの練習を忘却曲線に沿って行うことで、効率的に記憶の自動化を行うことが可能になります。

アウトプットを客観的に分析する

第二言語習得研究所の稲垣氏は、繰り返し学習と合わせて、アウトプットした英語を客観的に評価することの重要性を述べています。

例えば、音源付きの教材を選び、自分の音読を録音し、それをモデル音源と比較して、その差に気がつくこと、意識的に分析することが効果的であるとしています。

  • 音声のあるテキストを用意し、聞こえた内容をそのまま声にだす
  • スムーズに言えるようになってきたら自分の声を録音する
  • モデル音源と比較し、違い(一つ一つの音、イントネーションや音の強弱など)を分析する

このような学習方法が効果的です。

最後に

第二言語としてスピーキング力を高めるためには、思い出す必要がある「意味記憶」から、無意識に自動的に思ったことをそのまま口に出す「手続き記憶」へと記憶を自動化することが必須です。

日本の英語教育のほとんどは英語を勉強することで「意味記憶」とすることがメインになっています。

意味記憶でとどまらず、そこから技能としての「手続き記憶」にすることで、本来の意味で「英語を習得した」と言うことができます。

そして、そのためには反復練習と客観的分析が非常に重要と言えます。効果的な学習方法で、自然と英語を使えるようになりましょう。

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参考文献