二重符号化説
第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方
当記事はビジネス英語スピーキング教材「パタプライングリッシュ」を利用することで、なぜスピーキング力を身につけることができるのか、科学的根拠を示しながら解説します。
今回は人間の記憶システムの「二重符号化説」にスポットを当てて、英語学習との関連性についてご紹介します。
二重符号化説とは
二重符号化説とは、1971年、ウェスタンオンタリオ大学の教授あるAllan Paivioによって提起された、人間の記憶過程を説明する有力な仮説の一つです。二重符号化説では、記憶におけるイメージの役割を評価しています。
人間の脳内では、情報を記憶するにあたり2つの異なるシステムを使い分けています。「言語システム」と「イメージシステム(非言語システム)」です。
記憶の保持率が高まる
この両方のシステムが互いに助け合うことで、記憶の保持率が高まるのが「二重符号化説」です。
言語システムとイメージシステムは、独立して機能すると同時に、相互に関連しています。つまり、言語情報がイメージを喚起する可能性がある一方、イメージ情報が言語化される可能性もあるということです。
イメージシステムの方が記憶を保持できる
特に、イメージシステムが関与している情報は、記憶として保持されやすいと言われています。
Paivioらの研究によると、ある語を文字として見せられてそのまま記憶する場合よりも、そのものの絵を見せられてその名前として記憶する場合の方が、語を思い出す確率がほぼ2倍になるという事実も明らかにされています。
これは「画像優位効果」と言い、絵などの視覚的記憶は言語記憶より優れていることを示しています。文字は言語システムのみで記憶される傾向があるのに対して、絵は視覚イメージと言語の両方で記憶される傾向があるからです。
つまり、絵や写真を見たときに、イメージとして受け取られると同時に、脳内では自動的に言語化されているのです。
なお、イメージシステムの手がかりとしては、絵や写真などの視覚的情報に限りません。その他の非言語、つまり、知覚的、運動的(動作など)、情緒的経験(感情など)も含まれます。
記憶の過程と手かがり
全ての記憶には「記銘」「保持」「想起」の3つの過程が伴います。
二重符号化説とは、「記銘(符号化)過程」において脳内に手がかりが多い方が、それを「保持」「想起」しやすいということです。
英語学習における二重符号化説の例
あらゆる言語学習において語彙の習得は基本であり、二重符号化説は特にその語彙の習得に役立ちます。
第二言語を学ぶ際に、学習者はどのように語彙を記憶しているのでしょうか。
バイリンガル話者を対象とした二重符号化説の研究によると、バイリンガル話者は2つの言語システムと、一つのイメージシステムによって第二言語の単語を記憶していると言います。
「母語システム」と「第二言語システム」、更に両言語システムに共通する一つの「イメージシステム」です。
例えば、日本語と英語のバイリンガル話者では、「apple」という単語は英語システム(第二言語システム)の中に、「りんご」という単語は日本語システム(母語システム)の中に、そして、赤くて丸くて・・・というような「りんごのイメージ」はイメージシステムの中に保持されています。
イメージシステムを結びつけて記憶する
ここで注目したいのは、2つの言語システムに対してイメージシステムは一つに共通していることです。
「apple」の単語を覚える際に「apple=りんご」「りんご=apple」と反復するのではなく、「apple=りんご=りんごのイメージ」「りんごのイメージ=apple=りんご」というように、3つを結びつけて記憶しているのです。
それにより脳内で「apple」を検索する際の手がかりが増え、加算的効果により記憶は強固になります。
このとき、りんごのイメージのために、本物のりんごや絵に描いたりんごを用意する必要はありません。
頭の中でりんごのイメージを思い浮かべるだけで、イメージシステムは十分に機能することが分かっています。イメージを通して学ぶことで、理解と記憶は深まるのです。
英語学習の上で二重符号化説が重要な理由
二重符号化説を理解することは、これまでの英語学習をより効果的にする助けになります。学習方法を大きく変えずに、ちょっとした工夫として取り入れられる重要なヒントです。
二重符号化説とは、記銘時の手がかりにまつわる機能で、特にイメージが関与している記憶は保持されやすいというものでした。
つまり、この特性は、記憶の一番初めの過程である「記銘時」、すなわち「覚える」場面に意識的に取り入れることで活用できます。
単語や構文を覚える際、言語システムだけに頼り、呪文のように機械的に文字を唱えていませんか。これでは、想起する際の手がかりが少なく、なかなか覚えられないのも無理はありません。
二重符号化説を活かしたお勧めの英語学習法
二重符号化説を活かした学習法として、語彙や文法の習得に役立つ側面については、すでに紹介した通りです。
ここでは、特にスピーキングに焦点を当てた方法を紹介します。TOEICで高得点は取れるがスピーキングが苦手という場合には、ぜひ取り入れてみてください。
鮮明なイメージを描きながら、声に出すこと
スピーキング力を高めるためには、まず声に出して練習する必要があります。その際、必ず具体的で鮮明なイメージを描きながら行いましょう。
これは誰でも簡単に取り入れられる手法で、記憶の効果としては大きな差がつくポイントです。
フレーズを丸暗記しても実際の会話で話せないのは、言語システムのみの記憶では、いざ現実の場面に遭遇した際に思い出す手がかりに欠けるからです。
声に出したフレーズにイメージを加えるとは、場面を頭の中に描くことはもちろん、動作であれば実際に身体を動かしたり、感情を心に思い浮かべることも有効です。
これらを積極的に組み合わせることで様々な属性の認知処理をたどり、記憶の再活性化を促します。
常に、会話の相手と話している臨場感を持ち、自分事として声に出すのです。
まとめ
二重符号化説については、その用語は初めて聞いた人も、過去の試験勉強で実体験としてそのメリットを体感したことがある方も多いと思います。
これらの脳の特性を理解したら、次は意識的に活用し、より効果的な英語学習を実践しましょう。
記憶の仕組みを理解することは、自分自身がすでに持っている能力を最大限に活かすことと言えます。
無料ebookのご案内
- TOEIC800点以上なら、確実にスピーキング力が身につく英語学習法
- ビジネスで差が付く!実践イディオムフレーズ100選
- 留学&英会話スクールなしでスピーキングを身につける方法
など効率的な英語の学習方法について、無料ebookを用意しております。
ぜひご確認ください。
参考文献
- 川村義治(2006)「イメージと記憶 : なぜ身体動作イメージは英単語の記憶再生に効果があるのか」.『教育メディア研究』12巻2号.31-41.
- 川村義治(2006)「文の記憶再生における述語動詞の動作化の効果」.『日本教育工学会論文誌』30巻1号.29-36.
- 中沢保生(1990)「帰国子女の外国語の心理的処理過程と習得期の関係についての予備的考察 : 日本語と外国語の語彙二重コーディングの観点から」.『清泉女学院短期大学研究紀要』8・9号.1-13.
- 松見法男(1993)「第2言語習得における単語の記憶過程(2) : バイリンガル二重符号化説の検討」.『日本教育心理学会第35回総会発表論文集』.353.
- 呂承歴,他(2018)「中国語母語話者の日本語習得における単語の記憶過程: バイリンガル二重符号化説の検討」.『大学院紀要』.80巻.23-29.
- 遠藤正雄(2003)「検索時の処理が知覚的特定性効果に及ぼす影響」.『日本教育工学雑誌』.27巻.101-104.
- 遠藤正雄(2007)「再生課題によるテスト効果」.『近畿福祉大学紀要』.8号1巻.37-41.
- 長大介(2016)「テスト形式およびテスト形式の組み合わせが記憶のテスト効果に及ぼす影響 : 再生テストと再認テストを組み合わせた検討」.『大学院紀要』.76巻.23-34.
- 水野りか(2004)「処理水準の再活性化説による説明可能性の実験的検討」.『教育心理学研究』.52巻.33-43
- 最新心理学辞典.‟「符号化」の解説”.コトバンク.(参照2021-05-18)
- IIBC.‟テストの形式と構成”.TOEIC.(参照2021-05-18)
記事が面白いと思ったらシェアしよう
監修:松尾 光治
元大手英会話スクールの教務主任、教材開発。在米35年、現在もニューヨーク在住。早稲田大学第一文学部中退、英検1級、TOEIC985点。英会話の講師とニューヨークでの日系商社での勤務経験から、日本人ビジネスパーソンを対象にした実用的な英語教材を開発。
おすすめ記事
英語の「知識」を
使える「技能」に