エピソード記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

エピソード記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

英語学習において、記憶システムの仕組みを意識して活用したことはありますか?記憶の特性を理解して活かすことは、学習に役立ちます。

なぜなら「学習することは記憶することである」と言っても過言ではないからです。

文法規則や単語の意味を理解し、暗記することは大切ですが、ただ闇雲に取り組んでいても、英語を使いこなす能力はなかなか身につきません。

それぞれの学習方法がどのような種類の記憶に支えられているものなのか、その学習はどのような役割を持つのか、これらを理解して意識的に学習に取り組むことは、英語を「使える技能」として習得するための近道につながります。

パタプライングリッシュでは、人の脳内で言語活動がどのように行われているのかを研究する「第二言語習得研究 (SLA: Second Language Acquisition)」から、効率的な英語学習のやり方について解説します。

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今回は人間の記憶システムの「エピソード記憶(自伝的記憶)」にスポットを当てて、英語学習との関連性についてご紹介します。

エピソード記憶(自伝的記憶)とは

人間の記憶システムとエピソード記憶(自伝的記憶)の図解

エピソード記憶とは、経験した出来事を時間や空間などの文脈や感情とともに覚えている、あるいは思い出せる記憶です。

例えば、昨日の夕食について「自宅で家族とカレーライスを食べた」という事実、つまり、どこで誰と何を食べたかの記憶です。

エピソード記憶は、いわば頭の中の「日記」です。

エピソード記憶は自宅で家族とカレーを食べたという事実の記憶

意味記憶との違い

意味記憶とは、いつどこで覚えたのかを特定できない、もしくは「覚えている」よりも「知っている」知識のことで、言語とその意味や概念、知覚対象の意味や関係などについての記憶です。

同様に昨日の夕食を例にすると、「昨日とは今日より一日前の日のこと」「夕食とは夕方や晩にとる食事のこと」という説明は、意味記憶によってなさます。

意味記憶は、頭の中の「百科事典」であると例えることができます。

意味記憶について詳しくは「意味記憶 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」をご確認ください。

エピソード記憶と意味記憶の区分は、1972年、カナダの心理学者エンデル・タルヴィングによって提起されました。信州大学の小松教授によると、エピソード記憶という概念は、当初は、長期記憶内に保持されている情報の内容に言及するために提唱されたものでしたが、1998年頃には、内容よりもむしろ、想起の際の意識状態を表す概念として使われるようになりました。

エピソード記憶の特徴

エピソード記憶が、記憶の内容を指すに留まらず、想起の際の意識状態を表す概念であることは、エピソード記憶を理解する上で重要なポイントの一つです。

記憶とは「①記銘」「②保持」「③想起」の3つの過程であり、エピソード記憶は、そのうちの想起過程に深く関わりがあります。つまり、エピソード記憶を経て覚えることは、後に「思い出す」ことの助けになるのです。

記憶の課程

また、エピソード記憶は自伝的記憶に限定されません。例にした「自宅で家族とカレーライスを食べた」事実は、個人が経験した出来事の記憶で、自伝的記憶と言い換えることができます。

自伝的記憶とは、エピソード記憶の一種であり、特に「①記銘過程(内容)」に着目した分類です。

しかし、「③想起課程」の意識状態を表す概念としてのエピソード記憶は、必ずしも個人が経験した出来事に留まりません。

エピソード記憶の具体例

エピソード記憶と意味記憶について、LとRの発音を例に記憶の棲み分けを考えると、以下のように分類できます。

エピソード記憶「昨日の授業では教室でRとLの発音について学習した」という経験
意味記憶「Lは舌を歯茎につけるが、Rはつけない」という知識
LとRを用いた記憶の棲み分け例

東洋大学の湯舟英一教授によると、日本の学校の英語教育、すなわち、学校の授業や入試勉強で獲得される記憶のほとんどは「意味記憶」であると言います。

文法学習で言えば、「前置詞の後は名詞や-ing形が来る」「三単現にはsをつける」などは「~は~である」式の意味記憶の代表です。また、語彙学習でも「abandon = ~を捨てる」式の覚え方は自我の全く関与しない意味記憶です。

エピソード記憶を活かしたお勧め英語学習法①

エピソード記憶を理解して英語学習に活かすポイントは「忘れにくく、思い出しやすくなる」です。このポイントを実際に用いた英語学習方法は、大きく分けて2つあります。

そのうちの一つが、エピソード記憶(自伝的記憶)として学習する方法です。

英会話

英会話は、出来事として英語学習を体感できます。実際のコミュニケーションの場で話すこと・聞くことは、エピソード記憶(自伝的記憶)になります。

実在の人物を相手に、目を見て話し、時には身振り手振りを加えながらやりとりした会話は、相手の表情や空気感、その時の感情とともに、意識的に思い出せる記憶です。

英会話スクールや留学はもちろん、カフェやサークル、オンライン英会話などは、記憶システムの仕組みの観点から、エピソード記憶として効果的に活用できます。

英会話をしてエピソード記憶にする

英語で日記を書く、音読する

英会話の他には、日常の自伝的記憶(元になる経験は日本語)に英語を介入させることで、この方法を応用できます。

例えば、英語で日記を書くなどのやり方です。すでに経験した事実を思い返して、英語でその場面を追体験してみましょう。

加えて、「目の記憶」より「耳の記憶」がエピソードとして持続する「音読効果」も利用し、書いた日記を繰り返し音読することで、さらなる記憶の定着が期待できます。

英語で日記を書き音読してエピソード記憶にする

エピソード記憶を活かしたお勧め英語学習法②

もう一つのエピソード記憶の性質を活かした学習方法は、意味記憶をエピソード記憶に変換する方法です。

この方法は多くの学習場面に活用できるため汎用性が高く、エピソード記憶の活用として最もお勧めしたい方法です。

語彙や文法の例文は身近なものにする

教材に登場する数々の例文は、どのように暗記していますか?例文を原文のまま何度も反復して覚えている方は、ここで一つ工夫してみましょう。

反復することで記憶を促す学習方法は、意味記憶の代表的な例です。このような意味記憶をエピソード記憶に変換するために、例文を自身の生活に起こりうる、リアリティある身近なものに置き換えてみましょう。

例えば、「He」が主語の例文では「He」の顔が思い浮かびますか?教材でよくお目にかかる「Mr. Smith」はどんな人ですか?「this project」の内容をとっさに説明できますか?

例文を用いた英語学習では、会話の主人公になりきって練習することが大切です。一つ一つの例文を、臨場感をもって話せるように工夫して、細部までイメージしながら繰り返し口にすることで、意味記憶としてとらえていた知識は、より想起しやすいエピソード記憶に変換できます。

このような手順で覚えた例文は、自分自身の言葉として身に付きます。

例文を自身の生活に置き換えて練習してエピソード記憶にする

人に話す、説明する、発表するなどして出来事(自伝的記憶)にする

記憶したことを人に伝える過程を後から加えることで、学習した経験そのものを出来事(自伝的記憶)に変換する方法です。

単なる反復学習に比べると、その内容に時間的・場所的意味付けが加わり、エピソードとしての記憶に近づきます。

学習したことを実際に使いエピソード記憶にする

最後に

記憶システムの仕組みへの理解を深め、英語学習に活かすという視点から、エピソード記憶について詳しく解説しました。

「覚えられない」「思い出せない」のはなぜかということを、記憶システムの仕組みに見出すことで、記憶に対する否定的なイメージや苦手意識は手放すことができます。

記憶とは、私たちが使い分けることができる道具として、意識的に学習に活用できます。

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参考文献