転移適切性処理説 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

転移適切性処理説 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方

英語学習において、記憶システムの仕組みを意識して活用したことはありますか?記憶の特性を理解して活かすことは、学習に役立ちます。

なぜなら「学習することは記憶することである」と言っても過言ではないからです。

文法規則や単語の意味を理解し、暗記することは大切ですが、ただ闇雲に取り組んでいても、英語を使いこなす能力はなかなか身につきません。

それぞれの学習方法がどのような種類の記憶に支えられているものなのか、その学習はどのような役割を持つのか、これらを理解して意識的に学習に取り組むことは、英語を「使える技能」として習得するための近道につながります。

パタプライングリッシュでは、人の脳内で言語活動がどのように行われているのかを研究する「第二言語習得研究 (SLA: Second Language Acquisition)」から、効率的な英語学習のやり方について解説します。

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今回は人間の記憶システムの「転移適切性処理説」にスポットを当てて、英語学習との関連性についてご紹介します。

転移適切性処理説とは

学習時に行う認知処理と、課題遂行時に行う認知処理が、類似していればしているほど再認の結果は向上するというのが「転移適切性処理説」です。1977年、C.Donald Morrisらによって提起されました。

これは、人間の脳における認知処理の手続きに着目したもので、「記銘(符号化)時」と「検索時の処理」の一致度によって、記憶成績が決定すると考えられています。

3つの認知処理

認知処理には様々な種類がありますが、例えば「形態処理」「音韻処理」「意味処理」が挙げられます。

具体的に「apple」という単語が提示された場合、形態処理とはその文字の綴りであり、音韻処理とはその発音であり、意味処理とはそれが示す意味であると分類できます。

形態処理、音韻処理、意味処理の違い

このように、一つの単語を認知するにあたり、脳内では複数の属性による処理が同時に行われています。

これを踏まえた上で、単語の綴りを覚えることに焦点を当てると、形態処理を意識して活用する必要があります。とは言え、この場合は単純で、すでに誰もが無意識のうちに繰り返し単語を書く練習しているでしょう。

綴りを覚えるためには、いくら発音の練習をしてもその成果は得られません。正しい綴りを習得するためには、実際にそれを書いて練習する必要があります。

このように、転移適切性処理説では、脳内で同一の属性によって認知処理された記憶は再活性化しやすいと説明できます。また、反復して再活性化するほど累積され、記憶再生率が上昇します。

英語学習における転移適切性処理説の例

転移適切性処理説は、テスト効果を説明する理論として用いられることがあります。

一般的に、テストとは学習者が学習内容をどの程度理解、記憶しているかを測定する手段として知られていますが、それだけでなく、テストそのものに学習内容の定着促進効果があると認められています。

テストを記憶の観点から説明すると「記憶の検索と再生を試すもの」であると言い換えられます。つまり、テストそのものが記憶を再生する機会の一つとなり、記憶が再活性化するのです。

加えて、検索時に利用される情報がどのようなものかを理解し、記銘時に意図的にその過程を経由することで、効率的な検索を可能にします。

TOEICを例にした転移適切性処理説

英語学習においては、TOEICがその代表例です。TOEICを受験する際、どのような準備をしますか。

多くの人は専用のテキストを使用したりサンプル問題を解くことで、本番と同じ形式の練習をするでしょう。本番の形式をよく理解し備えることが、スコアを伸ばす大きな要因となります。

例えば、出題がマークシート形式であることを知らずに、綴りの練習をしていてもスコアにはつながりません。また、問題数や解答時間を知らずに取り組んでいても効率的な準備はできません。

穴埋め問題を4択から選ぶ形式で出題されることを知り、同じような問題を繰り返し解き、さらに、時間内に解答できるようなテンポで練習しておく必要があります。

実際のシーンに類似した環境で学習する

このように、学習時とテスト時の認知処理の類似に注目し、学習においてテストと同じ認知処理を実行することで、記憶テストの成績に恩恵を与えるのが転移適切性処理説です。

実際の場面により類似した練習をすれば、本番では覚えたこと(記憶したこと)が蘇りやすく(想起しやすく)なります。

再認の結果は向上する転移適切性処理説

転移適切性処理説を活かしたお勧めの英語学習法

転移適切性処理説とは、記銘時と検索時の処理が類似するほど記憶再生率が高まるというものでした。

そして、転移適切性処理説を活かした学習法として、TOEICの勉強法に役立つ側面については、すでに紹介した通りです。

ここでは、特にスピーキングに焦点を当てた方法を紹介します。TOEICで高得点は取れるがスピーキングが苦手という場合には、ぜひ取り入れてみてください。

音声で聞き、声に出すこと

「英語をすらすら話せるようになりたい」と思うならば、実際のスピーキングの場面に類似した学習方法を選択する必要があります。

スピーキングとは、ほとんどの場合に相手が存在し、相手の話を聞き取り、自分の意見を言葉で伝えるというやりとりです。

つまり「声を聞くこと」「声に出すこと」が近道になります。

もちろん、前提としてある程度の語彙や構文を理解しておくことは大切です。しかし、そのための勉強と、話すための練習とは区別して取り組みましょう。

求める技能を明確にし、目的に直結する学習方法を選択することが重要です。

実際の場面を想定し反復すること

可能な限り現実に寄せた場面で、反復練習をしましょう。

声による学習をイメージで支え、それを反復することで記憶は強固になります。

スピーキングにおいてテスト効果を用いるとすれば、それはテストを受けるというよりも、実際の会話に相当します。

小テストや定期テストの要領で、定期的に会話を実践する機会を設けることは、それ自体がスピーキング技能の定着に寄与します。

また、反復をより効果的なものとするためには、エビングハウスの忘却曲線も参考にしながらペースを調整してみましょう。

エビングハウスの忘却曲線とは、ドイツの心理学者・エビングハウスによる、人が学習した内容を忘れるまでの、時間と記憶の関係を表した忘却を表す曲線です。
詳しい説明は「エビングハウスの忘却曲線 - 第二言語習得研究の記憶システムと効果的な英語学習のやり方」の記事をご確認ください。

エビングハウスの忘却曲線
エビングハウスの忘却曲線を活かした復習

このように、「知っているのに話せない」英語中上級者は、記憶システムを理解して正しいトレーニングを行えば、スピーキング力を高めることができます。

まとめ

転移適切性処理説については、その用語は初めて聞いた人も、過去の試験勉強で実体験としてそのメリットを体感したことがある方も多いと思います。

これらの脳の特性を理解したら、次は意識的に活用し、より効果的な英語学習を実践しましょう。

記憶の仕組みを理解することは、自分自身がすでに持っている能力を最大限に活かすことと言えます。

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参考文献